クリスチャン・パヌッチが指導者の道を歩み始めたことで、イタリアのサッカー界はもっとも信頼できるコメンテーターのひとりを失った。この仕事を務められる人物は数多くいるし、実際にどのテレビ局も人選に困ることなく番組を制作しているものの、平凡な解釈とは違う切り口で意見を語ってくれる人物は多くない。
だがボバンは違う。彼の意見には視聴料金を支払うだけの価値がある。多くの人が語るのを躊躇するような話題であっても、改善すべき点、問題とされる点を厳しく指摘できる数少ない人物。教師が重苦しい雰囲気で「あなたの努力は認めるが、及第点を与えることはできない」と生徒に告げるように、自らの考えを視聴者に提示してくれる。
先日のサンプドリア戦終了後、「選手たちは最高のプレーをしてくれた。引き分け以上の結果を手にできる試合内容だった」とお決まりの言い回しをしたインザーギ監督に対して、「今のミランにはまともな選手がいない。監督の技量も不十分。この内容で満足など、考えられない発言だ」と切り捨てた。
低調なパフォーマンスを見せるチームを批判するだけはない。この日の試合前には「リーグ戦の外国開催など馬鹿げている。スーパーカップは構わないが、セリエA開催には反対だ」と視聴者の前でガッリアーニに意見を述べた。
現役時代はミランに所属し、チームを愛する心は今でも失っていない。かつてはインザーギ監督に「会長の存在など忘れて一週間を過ごせ」とアドバイスを送り、「自分をカンピオーネだと思い込むのはやめろ。そんなレベルではない」とバロテッリに忠告したこともある。
内容が悪くても賞賛しかしない人間たちにとって、最高のお手本となる存在。「メディアセット」がチャンピオンズリーグの放映権と同時に、ボバンの引き抜きを検討しないのが不思議でならない。