扉を開けると男たちの背中が見える。階級も勲章も付いていない黒い訓練スーツに身を包んだ男たちの背中だ。大部分がスキンヘッドで混乱しそうになる。彼らはイタリアの国家警察カラビニエーリの特殊部隊「Gis (Gruppo di Intervento Speciale)」として、国内で想定されるテロ活動に対処すべく、日々厳しい訓練を受けている。
トスカーナ州リボルノにあるこの施設は、司令部によって厳重に出入りが管理されている。機密事項の多い特殊部隊を取材することになったのだが、彼らの顔と名前は一切の秘密だ。そもそも隊員同士でさえ本名ではなく、ニックネームで呼び合うのだという。チーニョ、メティッチョ、ブルス・リー、ジェイムズ、ジュリーといった感じだ。
部隊の正確な人数も「100人以上150人以下」としか公表されていないが、司令官だけは別だ。ジャンルカ・フェローチェ。階級は大佐。彼の頭の中には、イタリア国内で予測される重大な危険がすべて情報として入っている。特に今年は5月から10月までミラノで国際博覧会が開催されることから、警察の部隊と連携して警戒を強めている。
心理学にも精通、隊員はランボーではない
1978年に結成されたGisの対処能力はここ数年間で、ドイツの「GSG-9」やフランスの「GIGN」といった外国の精鋭部隊と同じ水準にまで達している。隊員たちはアメリカのバージニア州クアンティコにあるFBIの養成プログラムを受講し、今ではイスラエルの「YAMAN」、イギリスの「SAS」と比較されるレベルだという。
Gisの隊員に選抜されるまでには厳しい試練に絶えなければいけない。国家警察からパラシュート部隊、外国で最低6ヶ月のミッションを終えた後、ようやく隊員として正式に認められる。ここではサーベルがメスに変化する。Gisとは外科医の手によって操られる精密な器具と同じだ。「夜のように静かに、稲妻のように素速く」がモットーである。
現場介入の訓練として、用意された画像の中から隊員たちに修正点を指摘させる。例題に挙げられたフランスの部隊の調査でも明らかになったように、このミスは銃を撃ち過ぎたケースだ。まずは現場を包囲すること。状況説明や犯人グループとの誤認を防ぐためにも、人質の解放を優先すべきだった。Gisはこういった訓練を常に受けている。
予想外かも知れないが彼らは滅多に発砲しない。対象を殺害することもないが、Gisの隊員として過ごす生活は極めて過酷なものだ。ブレーキを使わず運転する技術を叩き込まれ、アフガニスタンでは地雷を回避してヘリコプターからロープで降下した。その一方で、伝説の兵士として描かれる映画「ランボー」と比較されることをひどく嫌っている。
「周囲を見渡せない人間にGisの隊員は務まらない。次々と変わる状況に対処できる判断力と冷静さを持った人物が条件。事実、家庭を持った父親で、法律や心理学にも精通している30歳前後の者が理想とされる。警察のようであり、軍隊でもある。捜査能力と同時に兵士としての素質も欠かせない。そういう部隊はGisだけだ」