カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島を共有するハイチとドミニカ共和国が、人権問題に揺れている。ドミニカは以前から国内に不法滞在しているハイチ人を退去させる準備を進めていたが、6月17日以降はハイチ人の両親から生まれたドミニカ人も追放できるようになった。政府が推し進める方針に世界中から非難の声が集まっている。
ドミニカでは国内で生まれた人であれば、両親が不法移民であっても市民権を与える法律を数年前まで採用していた。この法律はドミニカ国内で働くハイチ人の子孫にとって、住む権利を約束する貴重なものだった。しかし2010年に法律が改正され、合法的な移民の子孫、もしくは親のどちらかがドミニカ人であることが市民権取得の条件となった。
2013年には、憲法裁判所が不法移民の対象を1929年まで遡ると決めたことで、ドミニカで生まれた大勢の人間たちが無国籍となった。2014年、国際社会からの強い反発を受けた政府は、50万人以上の外国人労働者(多くはハイチ人)に対する救済案を打ち出したが、彼らの子孫たちがどういった扱いを受けるのかは定かでない。
人権団体によれば、今回の問題は以前から両国間に存在する複雑な力関係が影響しているという。深刻な経済的不平等や人種差別、1937年にはドミニカの独裁者ラファエル・トルヒーヨが民族浄化作戦を掲げ、国境近くで2万人近いハイチ人を虐殺した過去がある。ハイチ人はこの歴史を今でも忘れていない。
現在でも国境付近の警備を担当するエージェントが、ハイチ人を肌の色で区別して通行を妨害したり、追い返したりする行為が続いており、アメリカの人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」から強い抗議を受けている。ハイチ人の祖先はかつて奴隷としてアフリカからやって来た者たちばかりだ。
スペイン語圏であるドミニカで育ち、ハイチ語やフランス語といったハイチの公用語を話せる人は多くない。国外追放の危機にある彼らは、ハイチ人からも同国人だと見なされていない。さらにハイチ側にはこういった人間たちを保護する施設など用意されていないのだ。ドミニカ政府は国際社会の声に耳を傾け、強引な退去措置は撤回すべきである。