ローマの勝利によって幕を閉じたダービー翌日、コリエレ・デッロ・スポルトは元イタリア代表監督プランデッリを編集部に招待し、今回のダービーを解説してもらった。両監督が用意した戦術、個人技、ミス。ローマの市街地で開催された「監督養成コース」を読者の皆様にお届けする。
―プランデッリ、今回のダービーはローマの厳しいプレスから始まりました。ラツィオはボールを繋ぐのに苦労していたようです。
まずジェコがボールを失った場面で、ローマがどういった姿勢でこの試合に臨んでいるのかが見える。ボールを奪われたジェコ本人とサラーが連動してプレスをかける。ボールを失った選手が守備に回るのは当然だが、ここまで本気で取りに行くのは珍しい。これがローマの戦い方だ。それによってラツィオは組み立ての段階から苦しくなった。
今回のローマのように3人のアタッカーとトップ下1人で布陣を組んだ場合、3人が下がると守備が機能しなくなる。後ろに下がるよりも前に出る方が消耗も少ない。こういった守り方はイタリアでは珍しい。これが出来るようになれば国際舞台でも十分に戦える。前線から守備に入って、中盤もコンパクトな陣形を保ったままボールを前で奪える。
―PKに繋がるシーンはどうでしょう?
ジェコが1対1を制してPKを奪った場面だが、特筆すべきはジェルビーニョの動きだ。右サイドからエリア内に切り込んで、ジェコのためにスペースを作った。ローマは90分を通してこういった動きを続けている。ゴールに背を向けてボールを受ける選手はワンタッチでパスを出して相手のプレッシャーを回避する。これがガルシアの狙いだ。
―PK自体は誤審でしたが、ジェンティレッティの潰し方も不用意でした。
タックルではなく、コースを切りに行くべきだった。おそらくジェコがコントロールを誤りボールが足から離れたのを見て「これなら取れる」と思ったのだろう。でもジェコが長い足を伸ばして、先手を取られてしまった。
ラドゥの対応にも問題がある。まずエリア内に侵入してきたジェルビーニョを捕まえないといけない。これは素晴らしいカバーだった。問題はその後だ。ジェルビーニョへのパスコースを塞いだ後は、自分の前のスペースを潰さないと。そうすればジェンティレッティと2人でジェコを挟めたのだが、それを怠ったためにジェコの突破を許すことになった。
―次はフェリペ・アンデルソンのシュートがクロスバーを直撃した場面です。
まずは彼の技術を褒めるべきだ。相手を股抜きでかわしてから強烈なシュート。相手2ラインの間で活躍できる選手にはアイデアがある。通常は左サイドに張っている彼が、この場面ではジョルジェヴィッチの真後ろにいる。守る側にしてみれば非常に危険な位置だ。中盤のひとりが下がるか、どちらかのセンターバックが前に出て対応すべきだった。
―ラツィオの決定機はラドゥの攻撃参加によるものです。
見事な組み立てからローマの右サイドを突破した。最終的にはリュディガーが滑りながらブロックしたのだが、洗練されたストライカーならゴールを奪っていただろう。シュチェスニーがゴールから3m以上も離れている。トロシディスが右サイドから離れていたことで、ローマは組織的な守りができず、個人の技量に頼るしかなかった。
―前半36分、ジェルビーニョが右サイドを突破してシュート性のクロス。中央でジェコが合わせたものの枠を外れました。
これはマルケッティのロングボールから始まっている。ローマの選手が弾き返したボールをバスタが難しい体勢でコントロールしようとした結果、ジェルビーニョに奪われた。無理にプレーを続けずスローインから組み立て直せば済む場面だった。
だが違いを生み出したのはローマの攻撃スピードだ。ボールを奪った途端にスイッチが入ってカウンターが始まる。ナインゴランとサラーが前線に飛び出し、後ろから上がってきたトロシディスがトライアングルを作ってパスを受けた。通常ならライン際で仕事をするサイドバックが、まるでMFのように内側でプレーしている。これは珍しい。
―ジェルビーニョに縦パスを出したのは、そのトロシディスです。
中盤の底にいたナインゴランが前線のサイドに張って、アタッカーであるサラーが止まってパスを受けた。そうして空いたスペースに最終ラインからトロシディスが走り込んでくる。ここ数年のセリエAでこれほど多くの選手が攻撃に参加するチームは稀だろう。
―前半40分、ナインゴランのシュートがポストを叩きます。
ラツィオにしてみればボールを奪い返したようなものだった。ジェルビーニョに対するプレスまでは良かったのだが、最終ラインの動きが逆だ。この場面では後ろではなく、前に出ないといけない。そうしてナインゴランにシュートを打つスペースを与えている。守備面で必要な伸縮性が足りていない。昨季のラツィオは完璧に機能していたのに。
―ファルケは地味な仕事に徹していましたが、戦術の鍵を握っていました。
最後までラツィオはファルケを攻略できなかった。ローマのサイド攻撃が機能していたのは彼がワンタッチでのプレーに専念していたからだ。逆にファルケ本人が突破を狙っていれば、簡単に潰されていただろう。守備面でもパローロやバスタ、ビグリアに対してプレスをかけ続けた。戦術的に最高の働きだった。
―後半7分、ジェルビーニョのドリブル突破からチャンスが生まれます。
単独で決定的なチャンスを作れる選手だ。彼のようなスピードを持つ相手に走られてしまうと止めるのは不可能に近い。そういう場面にならないよう気をつけるか、逆の考えとして、飛び込まずに待ち構えるという手もある。アタックにいくのは背後に味方が2人以上いる場合に限定する。この場面では3〜4人で取り囲んでボール奪取に成功している。
―ローマの追加点を見てみましょう。
ナインゴランにプレスがまったく掛かっていない。ローマの攻撃スピードを考えれば、ラツィオは中盤と最終ラインで守備ブロックを作らないといけない。マウリシオもショートパスを警戒して立ち止まるのではなく、ゴール方向に走ってマルケッティとの間にできたスペースを潰すべきだった。でないと一本のパスで簡単にゴール前まで走られてしまう。
プレスが機能していれば最終ラインを押し上げることもできる。だが相手がフリーの状態で背後にこれだけのスペースがあれば、ジェルビーニョなら10m後ろからスタートしても先にボールに触れる。相手がショートパスならプレスを掛けてラインを上げる。プレスが掛からないならラインを下げること。
―マルケッティのポジションもおかしいですね。
ニアサイドをまったくカバーできていない。本来なら対角線上で構えるべきなのだが、ゴールとの感覚を掴めていなかったのだろう。私もジェルビーニョがサイドに流れたのを見て、「これなら点は入らない」と思ったのだが。
―ピオリの戦い方をガルシアが「盗んだ」と言えるのでしょうか?昨季のラツィオは、守備の局面で現在のローマのように積極的な守りをしていました。
まさにそうだ。昨季のラツィオはこういった戦い方をしていた。ピオリ本人もその意味を理解しているだろう。前半はうまく対処できていたが、後半から綻びが見え始めた。
―ラツィオに足りなかったものは?
過密日程になると普段と同じような調整ができなくなるものだ。1週間に1試合なら細かい部分まで修正できるし、状態を見極めて選手を選ぶこともできる。ローマのキーポイントは2つ。ワンタッチを基本としたサイド攻撃と、ボールを奪われた際の切り替えの早さ。もっとも、この戦い方も数試合で対策されて機能しなくなるだろう。