現役時代フィオレンティーナやインテルで活躍したダニエレ・アダーニは今、セリエA中継を中心に多くのサッカー番組を制作するテレビ局「スカイ・スポーツ」の解説員を務めている。イタリア代表にも選ばれるほどの実績を持つ彼だが、自らの選手生活を語ることは滅多にない。メディア関係者や視聴者から高い評価を受ける人気解説者の秘密を探る。
―アダーニ、初めて解説者を務めた日のことを覚えていますか?
もちろんですよ。アルゼンチンのサッカーは大好きでしたし、インテルではアルメイダとも親友でした。「スポーツ・イタリア」でアルゼンチンリーグの放送が始まってからは、夢中で見ていました。ちょうどその時、試合の実況を担当しているアナウンサー数人と知り合い、みんなでコーヒーを飲む機会があったんです。その席で解説者をやらないかと言われました。喜んで引き受けましたよ。
―それで?
とても良い仕事ができたと思います。その試合でリーベル・プレートはベティスに負けてしまいましたが…。その後も複数のテレビ局から仕事の話を貰いましたが、当時はヴィチェンツァの助監督を務めていたので解説者としての仕事はできなかったのです。
―アルゼンチンリーグの後は?
2012年の夏にスカイ・スポーツから「オリンピックの試合を担当しないか?」と打診されました。オリンピックのような大舞台で仕事ができるなんて滅多にないチャンスです。休暇中でしたが、引き受けることにしました。大会が終わってからテレビ局の上層部が評価してくれて、翌シーズンから本格的に解説者を務めることになったのです。
―解説の仕事を始める際に、どのような準備を?
選手や監督の資料を徹底的に集めました。戦術の変化や選手が監督から受けた指示などの情報を探したのです。試合についてコメントしたり、分析したりするためには可能な限り分かりやすい資料が必要ですから。
インテルの助監督就任を拒否
―辛辣なコメントをする解説員もいますが、あなたは視聴者に分かりやすく説明するタイプですよね。
できるだけ公平な評価をするよう心掛けています。「この選手の活躍は期待できない」とか「監督がシステムや選手交代を間違えた」といった批判は好みません。チームとは単なる11人の集合体ではなく、11人が基になって生み出す集合体なのです。なぜ監督がそういう判断を下したのかを自分の視点から解説する。それが私の仕事です。
―具体的にお願いします。
例えばインテルのメデル。サンシーロの観衆はあまり評価していないようですが、マンチーニ監督は最終ラインをプロテクトする存在として先発起用しています。アタッカーに多少のスペースを与えても、上手く封じるだけの技術がある。強いハートと素晴らしいポジショニング・センスの持ち主です。マンチーニが重用しているのもそれが理由でしょう。
―以前マンチーニ監督からアシスタント就任を打診されたそうですが?
本当に辛い決断でしたが、スカイスポーツに残ると決めました。もちろん今でもマンチーニ監督は友人関係にあります。共にディナーを楽しみ、サッカーの話もしますよ。
システムは重要ではない
―「違う戦いをするには、システムをひとつ諦めないといけない」と話す監督たちも少なくありません。これについては?
そもそもサッカーはシステムで成り立っているわけではないので、数字だけで説明するには限界があります。重要なのは選手の配列ではなく、いつ、どこで、どうやってポジションを変えてスペースに対応するのかです。
―かつてプロ選手だったことを中継で話さない理由は?
解説をするのに昔話をしても意味が無い。重要なのは今ですよ。もちろん「過去があるから今の自分がある」という考え方は間違っていません。それでも主役はピッチで戦っている選手ですから、自分の過去より選手たちの今を話したいのです。
―まるで聖人の言葉ですね…。
サッカー界全体を眺めてみれば、その中心にいるのが選手たちであることに気づくと思います。試合に向けて選手を鍛え、戦力向上のために新しい選手を獲得する。実際にピッチで戦う者がいなければ、何も始まりませんから。