3月21日のバーリ戦に引き分けて4試合無敗となったパルマはその3日後、第30節でミランと対戦した。この試合の2週間前、マンチェスター・ユナイテッドに敗れてチャンピオンズリーグ敗退が決まったミラン。残りのシーズンは国内リーグに専念することになり、パルマ戦を迎えた時には首位インテルを勝ち点1差で追いかける状況にあった。
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スタジアムを最初に沸かせたのは、冬市場でパルマに加入したFWクレスポだった。試合開始からわずか10秒後、ビアビアニーのパスに反応してエリア内に侵入、右足で強烈なシュートを放つ。猛烈な弾道となったボールはクロスバーを直撃し、エンニオ・タルディーニが観客たちの大きなため息に包まれる。
中盤でパルマの執拗なプレスを受け、ミランは1トップで先発起用されたFWボリエッロにロングボールを入れ続けるがチャンスは生まれない。レオナルド監督はMFセードルフを呼んで、「中盤を省略するな。長いボールを使わず、細かくパスを繋いでいけ」と指示を出す。
指揮官の指示通りロングパスを封印したミランとは対照的に、パルマは中盤から一本のパスでチャンスを作り出していく。「ラインの裏に縦パスを入れろ。ビアビアニーのスピードを活かせ」と叫ぶグイドリン監督の意図した攻撃を続ける。
思うような試合運びができず、ミランのレオナルド監督がボリエッロに指示を出す。「もっと前にポジションを取れ! CBがボールを持ったらプレスをかけろ」と声を荒げる。守備は安定したものの、パルマのプレスから逃げるようなパス回しを続ける中盤に指揮官は納得していない。
「リズムを上げろ! もっと自信を持ってボールを繋げ」
テクニカルエリアから再三声を張り上げるレオナルドだが、その願いは選手に届かない。攻撃参加したパルマDFゼノーニの背後を突いたロナウジーニョが、個人技で数回チャンスを作り出すので精一杯だった。
中盤をひし形に組んだ4-4-2を敷くパルマは、ミランに決定機を与えないまま試合を進める。システム上は手薄となる中盤の両サイドだが、守備の局面になるとクレスポがスペースを的確に埋める仕事を続ける。だが2トップを組むビアビアニーが中盤を助けようとポジションを下げると、グイドリンから前線に留まるよう指示が飛ぶ。
一連のやり取りは、この試合におけるグイドリンの意図を明確にしている。守備の仕事をするのはクレスポであり、ビアビアニーではない。強靭なフィジカルと高さを誇るクレスポをターゲットにするのではなく、爆発的なスピードを持つビアビアニーを前線に残して、鋭いカウンターでミラン最終ラインの背後を狙うアイデアだ。
前半40分になると、スタジアムの電光掲示板がインテル先制の報を告げる。ミランベンチで最初に気づいたのはインザーギだった。数分後にインテルが追加点を挙げると、インザーギは誰よりも先に気づいて「またエトーが決めたぞ」とチームメイトに伝える。スクデット争いのライバルがリードを広げたことを知ったところで、前半終了の笛が鳴った。
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ミランベンチの〝速報係〟になっていたインザーギが、後半開始直後にウォーミングアップを始めると観客席から大きな拍手が巻き起こった。ピッチ上ではシステムを4-3-2-1に変えたミランが押し気味に試合を進めている。レジスタからインサイドMFに変わったピルロが左サイドで巧みにボールを集めて、次々にチャンスを作り出していく。
攻撃のリズムを上げたミランがパルマを押し込む展開が続くと、レオナルド監督は後半20分にインザーギを投入する。その数分後にはFWフンテラールもピッチに送り出して、ロナウジーニョを加えた3トップで先制点を狙う。4-3-3に変わったシステムでピルロは再びレジスタの位置に下がり、最終ラインの前で攻撃を組み立てるようになった。
倒れているパルマの選手を確認しておきながら、ボールを出さずにドリブルを開始したセードルフに観客たちが罵声を浴びせる。ファールでプレーが中断すると、パルマの選手たち数人が怒り狂ったようにセードルフを取り囲んで猛抗議する。このプレーで観衆の怒りを買ったセードルフは、ボールを持つたびに激しいブーイングにさらされた。
押し気味に試合を進めるミランだが、前線の活性化を図る交代策も先制点には繋がらない。ラインの裏に抜け出したインザーギが、ゴール至近距離からヘディングシュートを放つがGKミランテの正面。レオナルド監督は低い位置で構えるばかりのフンテラールに対して、叱り飛ばすように「もっとエリア内で仕事をしろ!」と指示を出した。
ドロー決着が濃厚となった後半44分に試合が動く。右サイドからエリア内に侵入したビアビアニーが低い弾道のシュートを放ち、GKアッビアーティが弾いたボールをボジノフが押し込んでパルマが土壇場で先制する。わずかな残り時間で猛反撃を開始するミランだが、ピルロが後方からのタックルで退場処分を受け、試合終了の笛を聞くことになった。