「CL出場権争いは今後も続く。私は諦めてなどいないし、インテルが3位になる可能性が消えたとは思っていない。残り5分という時間帯に失点して勝ち切れなかったのは残念だが、選手たちの働きには満足している」
3位争いのライバルであるローマとの直接対決を、マンチーニ監督はこう振り返った。オリンピコで劣勢を強いられながらも勝ち点1を奪い、5ポイント差を維持。10月の前回対戦で白星を挙げていたことで、ローマと勝ち点で並べばインテルが上位扱いとなる。それだけでもこの試合の引き分けはインテルにとって価値あるものと言えた。
だがその後が続かなかった。ラツィオ、ボローニャという難敵と対戦するローマに比べて、インテルは次節からトリノ、フロジノーネという比較的恵まれたカレンダーだったにもかかわらず、代表ウィーク明けのトリノ戦で敗戦。フロジノーネ、ナポリには勝利したものの、第34節ジェノア戦に敗れたことで、ローマとの勝ち点差は7に広がった。
リーグ残り4試合となったウディネーゼ戦の前日会見で、マンチーニ監督はCL出場権争いに関して白旗を掲げることになった。
「私たちが抱える最大の問題は得点力不足だ。半年間で7〜8ゴールを挙げられると期待してエデルを獲得したが、現実はそうならなかった。彼も含めて多くの選手が決定機をゴールに結びつけることができていない。チーム全体であと10ゴール挙げていれば、今ごろは2位か3位にいただろう。
開幕序盤は周囲を騙すことができた。『実力以上の結果を出している』と話しても、単なる謙遜だと受け止められた。たしかに上位を維持できていれば今季のレスターのような奇跡を起こせたかもしれない。だが現実はそれほど甘くない。4位という順位に私も選手も満足していないが、昨季と同じ失敗をしていると結論付けるのは誤りだ」
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5月1日のラツィオ戦に敗れたことで、3位確保の可能性は完全に消滅した。試合序盤から低調なパフォーマンスに終始するチームに我慢できなくなったマンチーニは、前半を終えてロッカールームに戻ってきた選手たちに怒りをぶちまけた。
「まったくクソみたいな試合だ。できることなら今すぐ全員交代させたいくらいだ。もう頭の中はバカンスか? 我々はインテルだ。こんな醜態を晒すなど許されない」
第37節エンポリ戦に勝利して4位を確定させたインテルだが、クラブ上層部はFFPの問題についてUEFA関係者との話し合いに臨むことになった。来季のCL出場ボーナスを視野に入れた財務計画を打ち出していたものの、3位を逃したことでクラブは大きな軌道修正を迫られた。
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トヒル会長はマンチーニ監督を続投させる方針を変えず、数人の主力と若手選手を売却することで財政状態を改善させようと考えていた。セビージャとの契約を満了したMFバネガなど、移籍金を必要としない戦力補強も進めていた。だがシーズン終了から約3週間後の6月上旬、トヒルは中国・蘇寧電器グループへのクラブ売却を発表した。
「株式の大部分を手放すという判断は決して簡単なものではなかった。それでもこの選択が正しいものだと確信している。現在のサッカー界は莫大な資金力を持つクラブによって支配されている。私たちが対等に渡り合うには新しいパートナーが必要だった。
今保有している株式を手放すつもりはない。蘇寧グループからは、クラブ幹部の残留とともに私自身も会長職に留まるよう要請されている。インテルを世界的なクラブに発展させるため、これからは彼らと歩み、新しい歴史を作る。私たちが新しく打ち出したプロジェクトはそういうものだ」
モラッティ前会長が保有していた株式はトヒルを経由し、蘇寧グループの手に渡った。モラッティとの完全な決別という形で、インテルはひとつの時代に区切りを付けた。その一方で信頼していたトヒルに梯子を外されたマンチーニ監督は、クラブの体制に疑問を感じ始め、新シーズン開幕前には泥沼の辞任騒動に発展することになる。