ELでハポエルに敗れたことで、ペスカーラ戦勝利の余韻は完全に消えてしまった。リーグ開幕から執拗にメディアから批判を受けていたデ・ブール監督。ユベントス戦の前日会見でも指揮官としての力量不足を指摘するような質問が集中した。
「インテルの監督である以上、プレッシャーからは逃れられないし、常に結果を出すことも要求される。それでもチームを正しい方向に導いていると信じている。きっと近いうちに結果も出せるようになる。インテルのファンであるならチームを支え、選手の背中を押すべきだ。難しい状況ではあらゆる人間のサポートが必要になる。
ファン・ブロンクホルスト監督の例を出そう。彼は昨季7連敗して、フェイエノールト内部に解任を考えている者もいた。だが先日のELでマンチェスター・ユナイテッドを倒した時は、解任を望んでいた人間たちも一緒に喜んでいた。望むべく結果を出すために必要なのは時間と忍耐だ。もっとも、私は8連敗などしたくはないがね」
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満員のサンシーロで始まった試合は、序盤からユベントス優勢の展開となる。マンジュキッチは強靭なフィジカルでボールを収め、ディバラが軽やかなステップを踏みながらインテル陣内に突進していく。アッレグリ監督はディバラに対して、バネガとメデル、2人のセンターハーフの背後にあるスペースを使って攻撃しろと指示を出した。
「プレスの強度を保て」と叫ぶデ・ブール監督に突き動かされるように、インテルは前線から素早い守備を見せてユベントスの組み立てを封じていく。前半20分にはイカルディがゴール手前で合わせるがボヌッチのシュートブロックに遭い、エデルが放ったシュートはわずかに枠を外れる。
ロングボールに反応したイカルディが、キエッリーニに競り勝ってエリアに侵入していく。右足で遠いサイドを狙ったシュートはクロスバーを直撃し、ゴールを期待した観客席が大きなため息に包まれる。デ・ブール監督の指示通り、トップ下のジョアン・マリオと中盤の底にいるバネガが頻繁に位置を入れ替えて、中盤で攻撃を組み立てていく。
ハポエル戦とは見違えるようなパフォーマンスを発揮するインテル。後半も立ち上がりこそユベントスに押し込まれたが、素早い攻守の切り換えを見せて陣地を挽回し、ジョアン・マリオとバネガを中心としたパス交換でボール支配率を高めていく。高い重心から素早いボール奪取を続ける姿は、まさにデ・ブール監督が目指すインテルだった。
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前線で孤立するばかりのマンジュキッチはチームメイトに不満をぶつけ、ユーベ守備陣はイカルディ、エデル、カンドレーヴァが繰り出す速攻に手を焼き続ける。決定的なシュートこそ撃たれていないものの、立て続けに際どいクロスを放り込まれると、アッレグリ監督が「後ろでのスピード勝負は避けろ。中盤でパスの出所を潰せ」と叫んだ。
試合展開に苛立っていたのはリヒトシュタイナーも同じだった。左サイドのアレックス・サンドロを経由する攻撃が続いて、自分に良い形でボールが回ってこない。そうしてチームメイトに声を荒げ、右センターバックのバルザーリと言い合う場面もあった。
それだけにユベントスが先制したのは試合の流れから言えば意外な展開だった。左サイドを突破したアレックス・サンドロがクロスを入れる。ゴール中央で合わせたのは「ボールが来ない」と不満を漏らしていたリヒトシュタイナー。数分前に言い合っていたバルザーリも一目散に駆け寄って包容し、ゴールを祝福する。
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押し気味に試合を進めながら先制を許したインテルだが、失点から数十秒後にコーナーキックで追いつく。トーンダウンしていたサンシーロに再び歌声が響き始め、「飛ばない奴はユベントス」のコールに合わせて観衆たちが一斉にジャンプを始める。デ・ブール監督はペリシッチを入れて前線の活性化を図り、一気に勝ち越しを目指す。
インテルの逆転弾が生まれたのは後半30分過ぎだった。アッレグリ監督がイグアインを投入してスタジアムが猛烈な口笛に包まれた直後、イカルディのクロスボールにペリシッチが頭で合わせた。爆発したような歓声がサンシーロを覆い、観客席にいたトヒル会長、蘇寧グループのチャン会長も立ち上がって拍手を送った。
1点を追いかけるユベントスは猛烈な反発力を見せてインテルゴールに襲いかかるが、イグアインのヘッドは枠を外れ、ピアニッチのFKもクロスバーをかすめるように越えていった。提示された4分のロスタイムを消化し、観客たちが口笛を吹いて試合終了を要求するが、主審はメインスタンドの関係者に向かって、「あと30秒続ける」と叫ぶ。
サンシーロが歓喜の歓声に包まれたのは後半51分。納得の試合内容でイタリア王者を下し、ここからインテルの逆襲が始まると多くのファンが期待した。だがそれは一時の幻想でしかなかった。