第7節終了時点で、ホームゲームの平均観客動員数1位を記録したのはインテルだった。だがピッチ内の順位はジェノアやトリノと並んで7位。首位ユベントスには勝ち点7差をつけられ、早くもスクデット争いから脱落していた。それだけに代表ウィーク明けとなる第8節カリアリ戦は、再出発のゲームになるはずだった。
この試合も多くのファンがスタジアムに集結したが、ゴール裏の雰囲気はこれまでと明らかに異なっていた。ファンたちの標的はイカルディだった。
マンチーニとクラブの対立が取り沙汰されていた開幕前、主将を務めるイカルディの去就もメディアの注目を集めていた。代理人であるワンダ・ナラ夫人が移籍をほのめかすように複数のクラブと交渉していることが紙面を賑わせ、ファンたちはエース退団の可能性に気を揉んだ。最終的にインテル上層部が契約延長を約束し、事態は収束した。
ゴール裏のファンたちを怒らせたのは、カリアリ戦の数日前に出版されたイカルディの自伝だった。真実とは異なる記述によって悪者に仕立て上げられたファンたちは、キャプテンマーク剥奪をクラブ側に要求する声明を出し、カリアリ戦でもイカルディを糾弾する横断幕を掲げて罵声と中傷を繰り返した。
サンシーロは真っ二つに割れた。ゴール裏のファンたちがイカルディに罵声を浴びせると、他の大多数は中傷の声をかき消すように口笛を吹いた。観客席の混乱が伝播したようにピッチ上のインテルは精彩を欠き、渦中のイカルディもPK失敗という憂き目にあった。再出発を期待したカリアリ戦で躓き、完全に上位争いから脱落することになった。
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クラブから罰金を科されたイカルディが当該箇所の記述を削除すると決め、一応の解決を見た。それでもキャプテンマーク剥奪という要求をクラブが拒否したことで、一部のファンたちはその後もイカルディを敵視するようになる。ピッチ内の問題を解決したいデ・ブール監督にとって、次々に発生する個人の騒動は厄介の種でしかなかった。
サウサンプトンを下してEL初勝利を挙げたものの、アタランタに敗れてリーグ3連敗となるとデ・ブール監督の進退を問う声が一気に噴出する。デ・ブール本人も「数日後のトリノ戦で私がベンチに座っているかは分からない」と話すほど苦しい立場に追いやられた。カップ戦を含めて公式戦12試合で6敗という成績は、誰の目にも不十分だった。
負ければ解任とまで言われたトリノ戦に勝利し、とりあえずは監督の座を守ったデ・ブール。クラブ上層部は口を揃えて解任を否定したものの、サウサンプトン戦後から飛び交う監督交代の噂は消えず、メディアもデ・ブール再浮上の可能性より次の指揮官が誰になるのか、という後任人事ばかりに注目するようになった。