インテル上層部はピオリの手腕を高く評価していた。監督就任後のリーグ16試合で12勝1分け3敗。敗れた相手はユベントス、ローマ、ナポリという上位3チームである。CL出場権獲得を目標とする以上、3位確保は至上命題だったが、空中分解寸前だったデ・ブールのチームを瞬く間にピオリが蘇らせたのは疑いようのない事実だった。
蘇寧グループはシーズン終了後にピオリとの契約を延長する方向で動いていた。ピオリもアウシリオSDをはじめとするクラブ上層部に、夏市場での補強リクエストを出していた。それでもコンテやシメオネが後任としてやって来るという噂は消えなかった。数ヶ月前のマンチーニと同じように、存在しない新監督の影にピオリも付きまとわれた。
煩わしい噂を払拭するには結果を出して周囲を納得させるしかない。だが7ゴールを挙げて大勝したアタランタ戦の翌週から、インテルの足並みが乱れ始める。崩壊の序章はトリノ戦だった。後半途中にカンドレーヴァのゴールで追いつき、残り20分で幾度となく決定機を作ったものの、最後まで逆転弾は生まれずドローに終わった。
試合終了の笛が吹かれると、イカルディは怒りを撒き散らしながらピッチを去り、カンドレーヴァも「負けに等しいドローだ。上位勢の勝ち点獲得ペースを考えれば、残り9試合に全勝するしか順位を上げる方法はない」と白旗を上げた。残り9試合で3位ナポリとの勝ち点差は8。たったひとつのドローでインテルは崖っぷちに立たされた。
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「大きなチャンスを逃した。普段なら考えられないミスが次々に起きた。順位表を見れば3位確保は相当に難しい。現実的に考えるならEL出場権獲得に目標を切り替えるところだが、自ら可能性を閉ざしたくはない」
引き分けに落胆しながらも「望みを捨てない」と語ったピオリ監督だが、一週間後のサンプドリア戦でインテルは悲惨な結末を迎える。幸先よく先制しながらも後半立ち上がりに追いつかれ、試合終盤にはクアリアレッラにPKを決められて逆転負け。不用意なハンドでPKを献上したブロゾビッチは批判の集中砲火を浴びることになった。
この敗戦でナポリとの勝ち点差は9に拡がった。試合翌日の紙面には「さよならチャンピオンズ」の文字が踊り、CL出場権獲得の可能性は事実上消滅した。3位どころかラツィオとアタランタにかわされて6位に沈んだインテル。もはやシーズン残り試合はEL出場権という最低目標をクリアするだけのものとなった。